孫子の教え:第四 『形篇』

孫子の教え:第四 『形篇』

 

 

 

 

前準備の必要性を説く孫子も、いよいよここから戦争実践編。正直、戦争用の教えから我々が直接得られるものも限られてきますが……

 

言ってる内容を現代風にアレンジし、きちんと頭に組み込んでいけば、役に立つことも多くありますよ!

 

 

 

というわけで、今回は第四回、形篇。

 

戦争には、明確な「形」……つまり、勝てる形勢をしっかり整え、明確に勝ち筋を立てなければなかなか勝てません。

 

明確に弱点をつけなければ敵陣は崩れませんし、あやふやな定義を「勝ち筋」とするのにも少々無理があります。

 

 

というわけで、この形篇は、勝つための姿勢、理論について述べられています。応用すれば現代にも使える話ですので、ここはしっかり知っておきましょう!

 

 

 

 

 

 

 

先ず勝つべからざるを為して、以って敵の勝つべきを待つ

 

 

 

 

戦う以上勝った方がいいのは間違いのない事ですが……勝ちを望むあまりに最悪の事態への対応が遅れてしまえば、それだけもしもの時に対応しきれません。

 

 

そこで孫子兵法では、

 

「戦上手はまず何より負けない態勢をきちんと整えてから、誰にでも勝てるような状況が訪れるのを待つものだ」

 

と述べています。

 

 

つまり、好機でもない時はいきなりチャンスを手繰り寄せるのではなく、まずは相手から見て付け入る隙を減らし、防備を整えるのが先決というわけですね。

 

 

 

戦争をすごーく簡単に二分化するなら、「攻撃」と「防御」の二種類。

 

こう考えれば、「攻撃」できないタイミングでは「防御」にいそしむべきだという孫子の教えも納得できますね。

 

 

 

当然、攻撃できる絶好のタイミングでせっせと防御にいそしむのはダメだけどな。

 

この辺の駆け引きが難しいんだ、これが


 

 

孫子のおおよその優先順位としては、負けないこと>勝つこととなっています。

 

つまり、勝利の栄光よりも徹底して被害と損害を防ぐことが優先されるわけですね。

 

 

そのため、

 

守則不足 攻則有餘
守は則ち足らざればなり。攻は則ち余り有ればなり

 

 

つまり、「兵力が足りなきゃ守る。兵が多けりゃ攻める」と述べています。これは相手方にも同じようなことが言えますね。

 

 

また、「地の底に姿を隠しているかのように狙いが見えない」のを最上の守備とし、「天翔けるかのごとき怒涛の行動」を最上の攻撃とも述べています。

 

 

つまり、守る事とは狙い、弱点、陣容なんかを知られないのがベスト。逆に攻撃は思い切って勢いよくというのが一番といった意味合いですね。

 

 

 

 

 

善く戦う者は不敗の地に立ち、而して敵の敗を失わざるなり

 

 

 

 

さて、攻守の定義は先ほど述べた通り。ですが、その攻守のタイミングの見極めは恐ろしいほど難しいものです。

 

 

孫子は「誰にでもわかる勝機」程度では見極めとしては不十分とし、態勢がハッキリする前にスパッと見極めるのが最上だと述べています。

 

 

 

わかりやすく言うなら、「戦う前からしっかりと相手を見極める奴は最強」としているわけですね。

 

 

 

で、相手を完全に見切った上でもっとも無理のない勝利を収める人々はどんな人か……。

 

 

 

 

ズバリ、しっかりと相手の隙を読み取り、誰でも勝てるような戦いに臨む人を言います。

 

 

孫子は、人々からたたえられる武勇、不可能を可能にする知略といったものに最大級の評価をしていません。

 

 

真の戦上手は、凡人が適当に指揮をしても勝てそうなくらい楽勝なタイミングをしっかり見計らって、世間から「当然じゃん」「勝てる戦いだけで全戦全勝してる奴の何がすごいの?」と言われるような勝ち方をするとまで言っています。

 

 

毛を一本持ちあげただけで力持ちとは言いませんし、月と太陽が見えるだけの視力を良好とは判断できません。

 

 

本当にできる人というのは、100キロのバーベルを毛一本に差し替えたかのような余裕溢れる勝ち方をするものなのです。

 

 

そのため、猛将としての評価も得られませんし、知将であると世間に言われることもありません。

 

 

何しろ、戦う前から勝利を確定させ、すでに負けている相手を打ち破っているだけだからに他ならないからです。

 

 

 

是故勝兵先勝而後求戰 敗兵先戰而後求勝

 

故に勝兵は先ず勝ちて而る後に戦い、敗兵は先ず戦いて而る後に勝つ。

 

 

勝つのが先か戦うのが先か……勝敗は、その優先順位で決まっているというわけですね。

 

 

勝ちに乗れる人は、戦う前から勝利を確定させているのです。

 

 

 

段取りをしっかり決めていけば、無作為にやりながら考えるよりは成果は出る。

 

特に勝負事は、いかに人より一歩前に出るかで決まるわけだから、根性論なんかじゃなくてしっかりした準備、対策をおこなっていきたいな


 

 

 

 

 

 

積水を千仞の谿に決するが若き者は、形なり

 

 

 

 

兵法とは、測量の目で敵味方を計ることにあります。

 

 

一曰度 二曰量 三曰數 四曰稱 五曰勝

 

第一に度、第二に量、第三に数、第四に称、第五に勝

 

 

この5つを順々にしっかり計算していくのが、必要になるという事ですね。

 

 

まず第一の「度」。これは物差しのことですね。

 

おおよその戦場の知性や地形、距離などのことです。やはり戦場へ行く以上、予定日数や地形によって必要な軍備などを前もって算出しておく必要があるわけですね。

 

これには「国の広さ」という意見もあり、守屋洋氏の孫子兵法ではこちらが採用されていますが……これもやはり大事な事でしょう。国力をしっかり把握していないと、軍備の上限数もわかりませんし、国力を顧みない戦争は国を貧乏に追い込みます。

 

 

 

そして国力を計れば、今度は第二の「量」。今度は升目での計算になります。

 

これに関しては、戦場地形を調べた上で、必要兵力、物量を推し量るべしという意味ですね。

 

少ない兵力や国力で戦っても勝ち目はありませんし、多すぎても負担が大きいです。物資は多すぎれば行軍の際に負担になりますし、少なければ戦争中は飢餓や軍需品不足に苦しめられるでしょう。

 

また、度を国の広さと見る場合は、それに準じた資源数、国力の多寡にかかわります。つまり、敵国の地力を推し量れるわけですね。

 

 

そして次に調べるのは、第三の「数」。ズバリ、兵力のことですね。

 

これは一貫して、「敵味方の動員兵数」という意味合いを持ちます。

 

敵の動員兵数を知っていれば「何人送り込めば勝てるか」の算段が付きますし、味方兵力も限りある物資を消費して戦わせる以上投入数も過不足なく決めておいた方がいいでしょうね。

 

 

 

さて、そこまでくると、次は第四の「称」。

 

やはり戦いは数が大きく影響します。こちらが多ければ多いほど、「攻」の形をとれる機会も多く、勝率も上がります。こうして兵数を比べて、最後の計算につなぎます。

 

 

 

というわけで、以上四つを総括して冷静に計算していくのが、最後の「勝」ですね。

 

上四つを私情や感情を交えず冷静に計算して国力を廟算していくと、勝てるかどうかが見えてくる、というわけです。

 

 

 

 

強い軍はこういう前計算をしっかりしているので、巨大な鉄球で薄い鉄板をぶち破るような戦い方をします。

 

逆に弱い軍は計算せず戦おうとするばかりに、弱っちい小さな鉄球で分厚い鉄板を破らなければならなくなり、結果として並外れた勇戦や奇策が必要になり、ほぼ負けが確定した博打のような戦いになるというわけですね。

 

 

 

自分一人なら何とかなる人もいるでしょうが、集団で動く以上は気合いで劣勢を巻き返すのも至難の業。さらには考えた奇策も失敗すればかえって不利に働くことすらありえます。

 

そのあたりもしっかり計算に入れたうえで、孫子はそうならないためにも楽勝ムードをセッティングすることを最上と見ているのです。

 

 

この形篇の締めくくりとして、

 

「勝者の戦いは、深い谷底に蓄えた大量の水を流すようなものだ。これこそが形篇での理想だ」

 

 

としています。

 

 

 

やはりやる以上は楽に決着をつけたいですからね。そのためには、楽できるための堅実な準備をするのも非常に大事というわけですね。

 

 

         




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