岩波文庫:新訂『孫子』    感想文

岩波文庫:新訂『孫子』   注釈:金谷治

 

 

孫子兵法第二弾!

 

 

今回読んだのはコチラです。

 

 

 

 

新訂 孫子 (岩波文庫)

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今回は、前回のような余計な政治思想様々な例や注釈を排除した、かなりシンプルなタイプの孫子注釈書ですね。

 

 

注釈したのは、『金谷治』氏。やはり前回の守屋氏と同じく、中国哲学や古文書なんかの解説、解析を行っていた方ですね。

 

 

 

孫子兵法と言えば、昨今では様々な人が手軽に読めるよう、いろんな注釈や実用例、果ては個人の思想など様々な物が入り混じって、孫子という枠組みにとらわれないくらい多方面に広がりつつある分野ですが……

 

 

この本、なんと余計な注釈や使用例、さらには思想や図解といった余計なものが含まれない、かなりシンプルな作りとなっています。

 

 

そのため、少々難解さはありますが……とにかく「ゴチャゴチャしたのが嫌いだ!」という読者にとっては満足のいくものかもしれませんね。

 

 

 

 

ハイパーシンプルな三段構成

 

 

本書の構成はたった3つ。

 

「原文」

 

「書き下し文」

 

「現代語訳」

 

これだけ!

 

 

つまり、漢字ばかりがずらずら並んだ漢文、その次に、漢文をまんま日本語に直しただけの古風な書き下し文、そして最後に、それを現代の言葉に直しただけの文章。

 

たまーに文や文字のわかりにくい部分に注釈は付きますが、それ以外に無駄な物は一切排除。思想も図解も例を用いた解説も、何もありません。

 

 

つまり、ほとんど純正。昨今伝わっている孫子の原型そのままとも言うべき本がこれ、というわけですね。

 

 

 

孫子の有名な「戦わずして勝つ」の成功例も無し、孫子での実戦偏真髄である「迂直の計」なるものの実際の解説も、それぞれの考えに委ねるような形になっています。

 

 

 

マジでシンプルだから、

 

・抽象的

 

・表現は少し難解

 

という部分は頭に入れておきたいよな!


 

 

 

 

 

『孫子』のよい点

 

 

 

じゃあそんな本の何が一番いいのかというと、やはり余計な思想が入ってこない、いたってシンプルな作りです。

 

 

だいたい他の孫子兵法の場合、様々な解説や図解、使用例なんかがついてきますね。特に初心者向けのものであれば、それはなおさらのこと。

 

 

 

しかしこの孫子の場合、そういった個人解釈に委ねられるような解説は一切排除しています。

 

つまり、執筆者の思想や理念がほとんど入っていない、ほぼ純正のままの孫子がこの本の最大の特徴です。

 

 

 

「余計なことは知らなくていいぜ!」

 

「とにかく孫子の兵法でどんなことが書かれているのかだけを知りたい!」

 

 

 

そんな時に手に取る本としては、まさにふさわしいの一言でしょう。

 

 

 

 

図解や解説、独自解釈なんかを入れると、どうしても「孫子」よりは、

 

 

「孫子を元にして作ったオリジナル兵法書」みたいになりがちだからな。

 

 

わかりやすくすればするだけ、否が応にも自分なりの考えや自己判断での解釈がついてしまうわけで……


 

 

 

はい、兵法書に関わらず、あらゆる本で言えることですね。

 

わかりやすさや使用例、自分なりの考え方を求めていくと、どうしても原典から乖離していくのです。

 

 

そうすれば次第に書物は『孫子』という名前と文章を引用したオリジナルのものへと変貌していき……最後には自身の『孫子を引用しまくって作ったオリジナル兵法』が出来上がってしまうわけですね。

 

 

 

……が、この本にはそういうきらいは一切無し!

 

 

ひたすら孫子の解読、書き写しに徹しており、ひたすら原典に近いものを求めたような一品です。

 

 

 

つまり理解さえできれば、それだけ孫子の教えに対する造詣は深まっていくわけですね。

 

 

 

・孫子の教えを濃密に知りたい方

 

・余計な解説とかいらないから、とにかく当時の戦争観に思いを馳せたい方

 

 

おそらく本書は、そんな方のために作られたのではないかなと思われます。

 

 

 

 

でも難しいんだよこれが!

 

 

はい、「シンプルなそのまんまの孫子」という事で、すでに何となく察している方もいらっしゃるでしょうが……

 

 

この本、難しいです。

 

 

 

言ってしまえば、高校や大学の古文の教科書を、イラストもなしにそのまま読んでいるかのような感覚。

 

 

例えば難読な感じや明らかに日本語ではない漢字は当たり前に出てきますし、表現だって古典的でわかりやすいもののオンパレード。

 

 

正直、そういうのに慣れていないと読むのも嫌になるレベルかもしれませんね。

 

 

 

 

 

聞いて驚け、これでも古代中国の書物では難易度は低いほうだ。

 

六韜とか呉子なんて、子弟による質疑応答の記録ばっかなんだぜ。

 

 

『○○は言った。「○○の場合はどうすればいいか?」

 

××は答えた。「○○だから、××をすればよいのです」』

 

 

これがデフォルト。死にたくなるね!


 

 

 

あと、中国兵法書の全般に言えることですが……

 

 

特に中国兵法書は「あらゆる事態に冷静に対処すること」を最良としているため、抽象的な表現も多めになっています。

 

 

もっとも、この辺はノウハウ本の宿命とも言うべき部分ですが……必要な心構え、姿勢、そして大まかにどう対応すればいいかまではしっかりと記載されています。

 

 

が、例えば最初のうちに言った「迂直の計」。これは要するに、「無理のなく地の利、有利を得て機先を制することが出来れば勝てる」という事を書かれていますが……

 

これに関しては「まっすぐ無理矢理機先を制しても、大軍ならば動きが鈍くて難しいし、先行させると兵糧確保が難しい」等、書かれているのはNG行為とも言うべきことばかり。

 

 

そもそも戦争には答えなどなく、兵法だけでなく実情をしっかりと見て奇策や本来御法度な危険行為を行うのも時に必要と……語るのは難しいのがあります。

 

 

 

要するに、「教科書は所詮教科書」という事ですね。文面だけではダメ。その真髄を知るには「1を読んで10を知る」くらいのつもりで考えて読まないと、何も見えてこないのです。

 

 

総じていえば、本書の欠点はシンプルで余計な物がないゆえのわかりにくさに集約しています。

 

 

しっかり考えて読むことができれば、きっとそこまで気にならないと思いますよ。しっかり自分で考えれば、ですが……

 

 

まとめ:純正兵法

 

 

要するに、こういう事ですね。至ってシンプルで無駄な解釈や解説がない。ですがそれゆえにしっかりと自分で考えて読まなければならない。

 

 

書かれている知識を自分でしっかり考えて自分色に染められる人にとっては有意義ですが、本文そのままを読んだ程度では答えが見えない。

 

 

総じていえば難しいと。そんな書物だと思います。

 

 

 

兵法書は戦時ならば必須科目として指揮官はほぼ必ず読みますが、しっかり奥底まで理解できる人少なく、そういった人は世の中から『策士』と称される。その理由が何となくわかるような一冊でした。



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