孫子の教え:第二 『作戦篇』

孫子の教え:第二 『作戦篇』

 

 

 

 

それでは、孫子の教え13篇のうち第二に書かれている、作戦篇。

 

 

「作戦というからには、いよいよ戦いの実践的な教えかなー」と思うかもしれませんが……

 

実はこれは「戦争を作る」、つまり、戦争のための下準備、つまり軍備やコスト面の話なのです。

 

 

 

全体を要約すると、「戦争には莫大なコストがかかる。だから戦えばいいというものでもないし、戦う以上は長続きしないようにしなければならない」といった旨を説いてますね。

 

 

 

 

 

其の戦いを行うや久しければ、兵を鈍らせ鋭を挫く

 

 

 

 

まず、戦争を行うには多大な費用が必要になります。

 

武装した兵士はもちろん、他にも兵器や軍事物資、さらには遠征ならば遠大な輸送路の確保にも資金が必要ですし、内政のみでなく対外にも費用が発生、さらには外交費用も併せて……

 

 

孫子は、仮に十万の軍を動員することを想定して、「戦車千台、輜重車(軍需品の輸送車両)千台」を兵士武装以外の直接資金に補填する必要があるとし、他の諸費用も含めると「一日千金でようやく十万の軍を動かせる」としています。

 

 

当然、戦争が長引けば長引くほどそれ相応に費用も膨れ上がり、敵を倒した際のうまみも減る上、こちらのダメージも深刻になります。

 

 

 

それに、戦っているのは物品ではなくただの人。ピリピリした戦場の空気に触れ続けると精神も疲弊し、それだけ動きも鈍くなります。

 

 

 

また、多大な物資を消費するという事は、それだけ国家に負担がかかります。

 

国が疲弊すればするだけ国の防備にも隙が生じ始め、外敵を最終的に自分から招き寄せることにもつながるのです。

 

 

当然、疲れ切った国に攻め寄せてきた敵軍をはねのけるだけの力はなく……どれほど優れた将軍や軍師に恵まれていても、こうなってしまえば「詰み」です。

 

 

 

 

やせ細った土地と疲れ切った兵士では、どうやっても領土を守り切れん。

 

何をどう見ても詰んでる状況を、気合いと根性だけでどうにかするのは無理ってことだな


 

 

 

 

 

 

 

 

兵聞拙速 未睹巧之久也

 

兵は拙速を聞くも、未だ巧久を見ざるなり

 

 

孫子はこういっています。

 

多少の粗は無視してさっさと切り上げる例は聞くが、ぐずぐず長引かせて上手くいった例は見たことがない」という意味ですね。

 

 

 

特に攻城戦では、「力押しでは戦力の多大な消耗は避けられないし、かといって長引けばそれだけ国が疲弊する」というジレンマを抱えて行うものです。

 

 

だからこそ、しっかりと戦争のリスクを知って、その上で戦争による利益を求めなければならないわけですね。

 

 

 

 

 

 

敵を殺す者は怒なり。敵を奪う者は利なり

 

 

 

兵役についても、孫子はこのように述べています。

 

 

戦上手は二度も戦役を起こさないし、前線への食糧補給も三度は行わない。

 

軍需品こそはしっかり輸送を行うものの、食料補給は敵地で行うのだ。

 

 

 

えぇっと…………

 

これは…………

 

略奪?


 

 

 

はい、略奪です。

 

ただし、留意点として、民衆を殺して財貨を奪う行為ではないという点があります。

 

 

村落を襲って民衆から食料や財宝を奪っていては、まず間違いなく戦後に悪影響を及ぼします。

 

具体的には田畑を耕す者は殺されていなくなるうえ、民衆や豪族の怒りを買って統治がままならないという事にもなり得ます。

 

 

 

そこで、どこから奪ってくるか……。ずばり、敵兵です。

 

敵兵の軍需物資から兵糧を奪い取り、これを食料とする。

 

 

これならば、敵も苦しむ上自軍の飢えも解消されるというわけですね。

 

 

そもそも戦争は割に合わない行為なので、いかに自国のダメージを抑えるべきかがカギとなります

 

 

そこで考え付いたのが、敵兵からの略奪というわけですね。

 

 

また、大量の物資を略奪した際には一番槍の者を表彰し士気を上げること、そして降伏した敵兵を優遇し敵の士気をくじくことも同時に言及されています。

 

つまり、「略奪と同時に敵味方の勢いに差をつけて一気に突き放す」という構想までセットで語られているわけですね。

 

 

何とも「綺麗な正義や道徳に構ってられるか!」という戦争の血生臭さが伝わってきそうな話です……

 

 

 

 

 

 

国の師に貧なるは、遠き者に遠く輸せばなり

 

 

少し前後しますが、孫子は仮に「食料を前線に輸送し続けた場合」の危険性についても言及しています。

 

 

 

長距離輸送は、民を貧しくする。

 

また近辺の戦いでは物価が跳ね上がり、物価が上がればそれだけ民は困窮する。

 

 

 

「どっちにしろ戦争をする以上、民衆の消耗は確実である」という事ですね。

 

 

軍需品である馬も生き物だから疲労しますし、戦車も武器も壊れます。そうなると事あるごとに民衆から税金を徴収して消耗した軍備を再び整えるわけですから、当然民衆の負担は大きくなります。

 

 

その上貴重な食料まで民衆から調達し、その分かさばった荷物の輸送費まで税金にプラスしていたら、お金がどれだけあっても足りないわけですね。

 

 

足りないお金は、当然民衆の税金持ち。こうやって民の蓄えは減って、それでも無視して輸送を続けていれば餓死者も出てきて……といった具合に、どんどん国は弱まっていくのです。

 

 

そのため出来る将軍は、せめて兵糧だけは敵地で確保しようとするわけですね。

 

 

 

 

 

故に兵は勝つことを尊び、久しきを尊ばず

 

 

続けて、

 

故知兵之將 生民之司命 國家安危之主也

 

故に兵を知るの将は、民の司命、国家の安危の主なり

 

 

 

第二章の「作戦篇」は、この言葉で絞められています。

 

 

 

つまり、「戦争はするだけでダメージが大きい物だから、それを知る将軍は人の生き死に、国家の存亡をわきまえた人物である。だからこそ、勝利を第一としつつも決して長引かせないのだ」という事ですね。

 

 

飢えや疲労は、気合いだけでは如何ともしがたいです。

 

故に、出来る将軍というのは、自他をきちんと見比べ、無用な戦いは避け、戦うにしても長引かせないというわけですね。

 

 

 

 

仕事なんかだとここまで大げさじゃあないが……

 

 

実際、みんなで仲良く長時間労働したところで成果は微妙だよな。

 

 

「やりたくてしょうがないんだ!」と燃えてる奴ならともかく、必ずしも皆そうじゃないし、体力に限界がある。

 

 

何事も、その場の全員が楽しめてるわけでもないのにダラダラ長ったらしく続けさせることは、精神衛生上よろしくないってことだな。


 

 

 

……まあ、現代社会に説いても無駄か(゜∀゜)

 

 

 

        




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