呉子:四章  『論将』 後編

呉子:四章  『論将』 後編

 

 

 

呉子兵法、論将編の後編!

 

 

論将編の最後の部分では、敵に合わせた行動、および相手を自分のペースに引き込む重要さを説かれています。

 

 

 

中国兵法では、基本的に敵に合わせて適切な対応を取ることと敵を誘い込んで上手く主導権を握り続けることの2つが重要視されています。その部分についてのお話ですね。

 

 

 

 

 

其の形に因りて其の権を用うる

 

 

 

 

戦いは、主導権と勢い。これは孫子の教えで言われていたような内容ですが、呉子でも似たような事を説かれています。

 

 

因其形而用其權 則不勞而功擧

 

其の形に因りて其の権を用うれば、則ち労せずして功挙がる。

 

 

 

つまり、相手に合わせた戦術をとって相手の状況を意識した戦い方ができれば、別段苦労も無く功績を上げることができるというわけですね。

 

 

そのために、まず敵将をよく調べ上げ、その才能や立たされている状況を熟知する必要があります。これは、もはや楽に勝つための前提条件と言ってもよいでしょう。

 

 

 

そしてよくよく調べ上げた結果……つまり敵将の性格や置かれた立場、心理状況によって、こちら戦い方を変えてやればよいのです。

 

 

 

例えば敵将の頭がいささか残念で人を簡単に信用するようなら、騙して誘い込む。

 

 

敵将が贅沢と傲慢な態度を好む性悪で兵たちが極貧に置かれて不平が多ければ、さらにこれを助長させて仲間割れを誘発する。

 

 

敵がやたらめったら迷っていておどおどしていたら、脅かして敗走させる。

 

 

逆にこちらを見下して油断していれば、包囲して隘路に誘い込み殲滅する。

 

 

敵が進軍しやすく退却しづらい場にいるなら誘い出す。

 

逆に進みづらく退きやすい場にいれば、こちらから打って出る。

 

 

水のはけ口がない湿地に陣取って長雨に打たれている敵には水攻め、風の強い日に草地にいる敵には火攻め。

 

 

長期間同じ場所に滞在してマンネリしている敵には不意打ちのチャンス。

 

 

 

……と、以上が呉子の上げている戦い方の例ですね。

 

 

いずれも、敵の心理や陣を張っている場所をしっかり見て、敵から見て一番いやらしい手段を用いていると言ってもよいでしょう。

 

 

 

これらは、しっかりと敵の事を調べ上げてこそできるもの。困難な任務や仕事ほど、考えなしに取り組むより情報をしっかり集めて、それを根拠に切り詰めて的確な方法を探したほうがいいのかもしれませんね。

 

 

 

名将の類ってのは、いつも気持ちの悪いくらい戦況を把握しているものだわな。

 

誘いをかけるにも普通にバレるわ、こっちの内面を見通すわ……

 

 

 

で、わずかな隙……例えば驕りだとか焦りだとかを利用して策を弄し、あっさり勝つと。

 

 

 

こういうのは、しっかりとした情報収集と敵情の観察によって成り立っているわけだな


 

 

 

 

 

困ったときの囮作戦?

 

 

 

さて、「調べろ」と言われたところで、調査の結果何の情報も無い場合もたまにはあります。

 

 

こういう場合、どうするべきか……。

 

 

 

呉子は、「囮を使った陽動で様子を見ましょう」と述べています。つまり、いかにもな方法で探りを入れてみる、というわけですね。

 

 

なんだかよくある手のような気がしなくもないですが……逆用されて奇策でも打ち出されない限り、この囮作戦ひとつで敵将が優れているかどうかがわかってしまうとか。

 

 

 

まず、囮には身分が低くて勇気のある者を採用。彼に精鋭部隊を指揮させ、敵に出くわしたら逃げるように命じるのが肝要とか。

 

とにかく、討ち取れそうな大したことのない感じの立場と、不利でも持ち場を投げ出して逃げないだけの胆力が囮には必要というわけですね。

 

 

で、この動きに対する敵の反応は、主に乗るか乗らないかの2パターン。

 

 

もしも整然とした隊列を保って囮を追撃し、追いつけないふりをして深追いしない……はたまたそもそも囮になど目もくれず平気で見逃す場合。

 

こういったパターンの場合、まさに相手は手強い知将と言えるでしょう。迂闊に相手にすれば、ほぼ間違いなく手痛い傷を負わされるでしょう。

 

 

 

逆に隊列も旗も乱れて兵の動きも自分勝手。囮にも闇雲に食いついて、利益があると思って必死に飛びついてくるのならば、それは愚将と言っても過言ではありません。

 

書かれている程のレベルで囮に食いつく場合、よほどの食わせ物でもなければ必至に追うだけの動きはできないでしょう。

 

 

 

この辺は……まあ頑張れば心理学とかにも応用できるかも。いかにもな利益のある話に疑いもせずがっつくようなら普通の強欲な人。疑って乗らないなら良くも悪くも一筋縄では騙されない人。こんなところでしょうか。

 

 

人は利益やオトクを前にしたら、大抵はそればかりを追いかけて足元の落とし穴に気づかないものです。

 

そういう時に足元を掬われるか掬われないかは、その人の器や頭の良さを見極めるいい判断材料かもしれませんね。

 

 

 

 

ちょこっと解説

新聞の絵を数えよう!

 

 

「戦争関係ねーじゃねーかバーカ!」と思うかもしれないが……一般人にどれほどここでいう「愚将」が多いのかを解説するため、ちょっと聞いてほしい。

 

 

ある時、とある場所で、「新聞の絵がいくつあるか数えたら賞金プレゼント!」という企画があり、多くの人が応募した。

 

しかし、この企画の賞金獲得者はなんとゼロ!

 

 

実はこの企画は、人がオトクを前にしたらどうなるのかという心理テストも兼ねたものであり、一面をめくってすぐ裏に、「絵を数えるのは実は嘘です! 今すぐやめて、嘘であることをスタッフに報告しましょう! そうしたら賞金ゲット!」と、デカデカと強調文字が張り付けられていたのであった。

 

 

かなり目立つように文字が書かれていたのだが、気付いた人は参加者の中には誰もいなかったという。みんな「絵、数える」というワードばかりを気にして、文字など気にもかけなかったのだ。

 

 

こういう企画からもわかる通り、人は目の前の“オトク”を見せつけられると、たいていは愚将と化して、見事に普通ならばわかるような陥穽にも引っかかってしまう。

 

戦場での大手柄は出世と莫大な褒賞にもつながるため、将兵の目の輝きは、まさにこれに通じるものがあるのかもしれない。

 

 

くれぐれも、どんなチャンスやオトク、絶好機に心躍っても、広い視野は失わずにいたいものである……




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