呉子:二章  『料敵』 前編

呉子:二章  『料敵』

 

 

 

 

中国兵法の真髄は、必殺必勝の最強の戦法……ではなく、相手に合わせて変幻し、握った主導権を渡さず敵を封殺することにあります。

 

そのためにまず必要になるのは何か。

 

 

 

ズバリ、敵情の観察ですね。

 

 

 

古来から名将というのは敵の動きをよく観察し、ここぞという時に一気に勝負を決するような勝ち方をしてきました。

 

この料敵篇では、敵軍の観察や状態に主眼を置いて繰り広げられた問答を、多く載せています。

 

 

 

 

 

読みやすいブログ形式で、本の内容をしっかり解説!

 

本を読むのにまだ抵抗のある方、始めから噛み砕いた知識だけが欲しい方にはオススメ。

 

まあ、時間がある限り自分で読んで考えたほうが為にはなりますが……それが難しいという方はいかがでしょうか?

 

 

 

 

夫れ国家を安んずるの道は、先ず戒むるを宝となす

 

 

 

最初のやり取りはまさしく敵に合わせた戦い方の一例のようなもの。

 

ここで記されている武侯と呉子の問答は、まさに周囲をほぼすべて敵国に囲まれた魏に対し、呉子がそれぞれの弱点と戦い方を提示した旨が記されています。

 

 

その呉子の言葉の最初がこれ。

 

 

夫安國家之道 先戒爲寶
今君已戒 禍其遠矣

 

 

夫れ国家を安んずるの道は、先ず戒むるを宝となす。

 

今、君すでに戒む。禍い其れ遠ざからん。

 

 

安全を図る上では、まず警戒を怠ってはならない。武侯はそれができているから、災禍は避けられると述べているわけですね。

 

 

さて、当時の魏は西部の秦と一触即発、さらには南部に楚、北部に趙、とあり、さらには背後の東部からは斉や燕が背後を狙い、秦との国境線は韓という国とも接しているという……言ってしまえば信用できない敵同然の国に完全に取り囲まれている状態でした。

 

 

そこで呉子は、それぞれの国の国の情勢と軍の弱点を見極め、以下のように分析。

 

 

険阻な地形としっかりした賞罰厳格な法律で守られている。

しかし団結力に乏しく、各々勝手に戦おうとしている

剛毅な気質の人民により国は富んでいる。が、高貴な身分は驕り高ぶっていて人民を軽んじ、政治は寛大だが待遇は不平等。

軍中は意思統一が行き届かず、強いのは主力部隊だけで、後方は乏しく強固ではない

領土が広大過ぎて統制が取れずに政治が行き届かず、人民は疲弊している。

一見してしっかりまとまっているが、その疲れから持久力に乏しい

実直で義理堅い気質で、守ると決めたら逃げようとはしない。

守りは固いものの攻撃力は低い

韓、趙 気質は穏やかで故郷は平穏。しかしそれゆえに政治は武官を軽視し、兵たちにやる気がない。

それぞれ軍備はしっかりしているが、ハリボテで実戦には弱い

 

 

 

 

その上で、呉子はそれぞれに対しての戦い方を提唱しています。

 

 

 

秦――身勝手な将軍らの気質を利用して、各部隊を利益で釣り出して各個撃破。伏兵を置いて攻めかかれば敵将も討ち取れる。

 

斉――部隊を三分割し、二部隊で挟撃の動きを見せて主力部隊の左右を引っ掻き回した後、手薄になった中央を突破。

 

楚――軍が集結しているところを急襲してやる気をなくしてやり、以後は攻めたと思わせては後退してを繰り返してまともに相手をせず、どんどん疲れさせれば勝てる。

 

燕――連中の実直な性格を逆手にとって、攻撃と見せかけて攻めなかったり等引っ掻き回して混乱させる。こうして敵が混乱し恐れを抱いたところで道脇に伏兵を仕込んで総攻撃をかければ、敵将を捕虜に出来る。

 

韓、趙――遠方に対陣して威圧し持久戦に持ち込み、一定距離を保って厭戦気分にさせれば勝利できる。

 

 

 

 

……まあこれらはそれぞれの国の気質や軍の様子によって立てた作戦なので、なかなか現代に転用するのは難しいでしょう。

 

 

しかし、こうした細かな作戦立案が即座に可能なのは、敵味方の情勢をしっかりと見極め、分析した結果なのは間違いありません。

 

何事も、細かな作戦や方針の打ち出し、取り決めができるのは、しっかりとした状況把握や分析があってこそなのです。

 

 

 

 

孫子における、「彼を知り己を知れば……」というやつだな。

 

 

状況を把握できないままの作戦や計画は、そのだいたいが頓挫するものだ。

 

 

 

打倒したい相手や達成したい目標があるのなら、それらに対して今の自分がどこにいるのかをしっかり理解しておくとグンと念願成就も近くなるぞ!


 

 

 

 

 

 

卜せずして戦うべき者

 

 

 

事前の準備や計算、観察をしっかりしなければ、戦いには勝てません。

 

しかし、それらにも例外という物は存在します。

 

 

 

呉子は、その例外を8パターン割り出して解説しています。

 

 

 

1.冬場で強風が吹き荒れて特に寒い中、日も明けない早朝に起きて川の氷を割って強制渡河するなど、部下の苦痛や難儀を顧みない敵

 

2.夏真っ盛りの炎天下に遅く起き始め、その後ゆっくりする暇もなく慌てて行動し、飢えや渇きに苦しみながらも遠路行軍する敵

 

3.長期戦で食料も乏しく不吉なことも立て続けに起こり、怨嗟や不安で士気が激減し、敵将が完全に成す術もなくお手上げ状態になっている敵

 

4.軍需品や燃料、飼料が枯渇した上、長雨にも打たれ続けて掠奪で物資を奪う事すらも困難となった敵

 

5.兵力が少なく地の利の悪い立地に陣を敷いて、案の定疫病などの弊害に苦しみ、しかも援軍の見込みもない敵

 

6.行軍距離も遠くとうに日が暮れ、兵の疲れも計り知れないにもかかわらず食事にもありつけず、武装を解除して完全に休養体制に入っている敵

 

7.総大将の人望もなく幹部の権限も少ない上に兵の結束もバラバラ。また援軍の予定もなく、兵たちも恐慌気味の敵

 

8.布陣が未完成、宿営の準備もできていない、あるいは険阻な地形の通過途中などなど……とにかく中途半端な状態の敵

 

 

 

呉子は、こういった敵を見かけると四の五の言わずにそのまま攻撃すべきだとしています。

 

 

要するに、誰にでもわかるような目に見えたチャンスでは、準備できていようができてなかろうが行動するのが最善というわけですね。

 

 

 

 

 

 

難きを知りて退く

 

 

 

続けては、逆に「戦ってはならない敵」について述べられており、こちらは6パターンに分けて記されていますね。

 

 

1.領土、土地の肥沃さ、人口すべてにおいて強大な敵

 

2.君主が人民を心から大事に思っており、その恩恵が十二分に行き届いている敵

 

3.賞罰の程度や、適用させるタイミングなどがしっかりしている敵

 

4.功績ある者が高い地位に居り、賢者や有能な人材をしっかり重宝する敵

 

5.兵力、装備においてこちらよりもしっかりしている敵

 

6.隣国や大国の援軍がある敵

 

 

今度は攻撃すべき敵とは逆ですね。目に見えてマズい時に行動を起こすのは愚策であるということです。

 

 

当然、敵味方で比べてみて味方が勝っている場合はこの限りではありませんが……仮にこれら6つの要素で勝てない敵に攻め込む場合、確実に敗北することを念頭に置くべきでしょう。

 

 

 

 

現代でも同じだな。

 

目に見えたチャンスは行動あるのみ!

 

どう贔屓目に見てもヤバいのに立ち止まるのは愚策!

 

 

 

日本人は不退転とか好きな民族だが、どうしようもない理由もなく神風特攻するのはNGだ


 

 

         




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