三十六計:第二十九計 樹上開花(じゅじょうかいか)
言葉の意味
樹上に花を開かす
花なんてどこにもない木の上に、まるで花が咲き誇っているように細工を施す。要するに、ハッタリですね。
転じて、ありもしないものをまるでそこにあるかのように見せかける(無中生有)、少数兵力をまるで大軍であるかのように見せかける計略を指します。
現代でも、使い道は多い計略ですね。
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要するに……
借局布勢 力小勢大 鴻 漸於逵 其羽可用為儀也
局を借りて勢を布けば、力小なるも勢大なり。鴻、逵に漸む。其の羽用て儀と為すべきなり。
要はハッタリの有用性を説いた文章ですね。陣や地形などをうまく使って有利であるように見せかければ、ちっぽけな力でも巨大な鳥が大通りで綺麗な羽をはばたかせているような大きな勢いが生じます。
人は見かけだけの情報や聞いただけのことで判断しがちで、正直なところ内面や本質といった中身には興味なし。むしろそういったものに興味を持つ人は「頭でっかち」と批難を受ける事すらあります。
だからこそ、見た目で圧倒することはとんでもない効果を発揮するわけですね。
戦争では、それこそ兵力を大きく見せる事や弱兵を強そうに見せるのは常套手段でした。例えば軍中で炊事に使うかまどの数を意図的に多くしたり、松明を兵士に1人2本以上持たせたりなど……歴史上を見ても、戦力を多く見せるハッタリで窮地を乗り切ったケースは多く見られます。
例えば無中生有の一例に挙げた、偽の城を立てる計略なんかもその一種ですね。
当然、現代でもかなり有用な方法ですよね。営業だったり就活だったり……ああいうのも、所詮は見た目の話。見た目さえよければ、相手は勝手にプラスに物事や言い分を受け取ってくれます。
例えば物静かな人を見ると、寡黙な仕事人ととらえるか陰気で性格の悪そうなじめっぽい奴ととらえるか……みたいな話ですね。
…………なんだか自分で書いてて納得できませんが、これが現実です。見た目ひとつで、相手の印象は大きく変わるのです。
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使用例:火牛の計
さて、ページ上部の画像は偽城の計に関連するものですが、同じ話を2回するのもあれなので……今回は春秋戦国時代の斉(せい)の名将・田単(でんたん)の計略について述べていきましょう。
斉は隣国の燕(えん)とかねてより激しく戦っていましたが、戦況は超劣勢。田単は計略によって幾分かは状況はマシになり滅亡寸前の状況は回避されましたが、それでもまだまだ燕の勝利は揺るがないという有り様でした。
そこで田単は、その劣勢を覆し燕軍を壊滅させるための策を実行します。
その計略で使うのは、牛。田単は千頭もの牛をかき集め、それぞれの角には剣を括りつけて布をかぶせることで牛の姿を隠し、まるで戦車に乗った兵のよう仕立てます。そして尻尾には油をぎっしりしみこませた松明を結び付け、一斉に着火。
尻尾に火をつけられて興奮した牛は一直線に城を駆けだし、敵陣に殺到。これに田単らの精兵も続き、まるで大部隊のように燕の軍勢を蹂躙します。
そんな様子を見せられた燕軍は大混乱に陥り、総大将が討死。その後斉は勢いを取り戻して燕に奪われた領地を奪還、燕の攻撃以前の領地を取り返すことができたのでした。