三十六計:第三十計 反客為主(はんかくいしゅ)

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三十六計:第三十計 反客為主(はんかくいしゅ)

 

 

客を反して主と為す

 

 

意味合いとしては、「客だったはずの人がいつの間にか主人となっている」という下剋上でも表すかのような言葉になりますね。

 

転じて、目的をひっくり返すような陽動作戦や、主目的を隠すためにあえてその場の不利をとって敵を油断させるような作戦、はたまた同盟国間や主従間では相手国の乗っ取りをさす言葉として使われます。

 

 

いずれにしても、兵法的に言えば「虚を突く」ことに特化した策の総称であり、相手の不意を突くことが戦争に勝つためにどれほど重要かを明確にしてくれる言葉ですね。

 

 

 

 

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要するに……

 

 

乗隙挿足 扼其主機 漸之進也

 

隙に乗じて足を挿し、其の主機を扼えよ。漸の進むなり。

 

 

相手の隙に乗じて、中枢部を抑えるべし。ただし、行動は一足飛びにせず順を追って行うように。

 

と、要するに「敵の頭を押さえてしまえば勝ちなんだから、隙を伺ってそれを狙いましょうよ」と言う事ですね。加えて、それには段階を踏まないと失敗の確率が上がるからおススメしない旨も同時に記されています。

 

 

統率の取れた組織には、必ずと言っていいほど中枢部が存在します。そして、そこを潰されてしまえば、必ずと言っていいほど混乱を招くことになるでしょう。

 

だからこそ、戦いの場では相手を全滅するまで叩きのめす必要がなく、とにかく中枢を抑えてしまえば勝利がほぼ決まる……と言われているわけですね。

 

 

当然相手もそれは理解しており、こちらが強ければ強いほど警戒し、中枢部や弱点を見せなくなります。そうさせないためにも、まずはこちらが弱かったり、別に大したものを狙っていないように見せかけるという計略が必要になってくるのです。

 

 

反客為主という言葉をそのまんまに受け取るなら、まずは何の変哲もないゲスト枠として懐に入り込み、小さなところから影響力を強める。そうして行くうちに主人に対抗しえる力を手に入れ、最後には主人が見せた隙を見つけて、そこに付け入って実権を掌握する……といった流れになるでしょうか。

 

 

いずれにせよ、影響力がないならないなりの利点があります。影響力がない=相手が油断しやすいという利点を逆手にとって、何気ないところから外堀を埋めていくのも立派な戦略なのです。

 

 

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実例:項梁の華麗な国盗り作戦

 

 

 

『史記』に記された激動の時代には、有名な人物の一人として項羽(こうう)という人物がいます。この人は元々楚(そ)という国の将軍の家系だったのですが、始皇帝の率いる秦によって国が滅亡した際に落ちぶれて失墜。

 

最後には叔父の項梁(こうりょう)が罪を犯してしまったことで罪人として他国に亡命するという幼少期を過ごしています。

 

さて、この項羽の叔父にあたる項梁という人物は、実は亡命先でとんでもない国盗りを成功させたのです。

 

 

項梁が亡命したのは、楚より東にある呉(ご)という国。項梁は隣国の下級行政官として何とか家を繋ぐことになりましたが、当然ながらそんな身分でひとまず満足する人物ではありません。

 

彼は野心を秘めたまま腐ることなくしっかりと統治をこなし、地元の信望を集めていきました。

 

項梁の政治は地元から次第に有名になっていき、隣の区画から次第に呉の国中へと政治の評判が伝播。長い年月をかけて大きな評判を得るに至り、最後には呉の政治の中心に入り込むことに成功したのです。

 

 

そうしていくうちに、始皇帝は病により死去。天下統一を果たしたはずの秦は反乱により一気に傾き、諸侯はそれに乗じて天下取りに乗り出す時代が突入。項梁が待ち続けていたチャンスがついに到来したのです。

 

項梁は立派に成長した甥の項羽と示し合わせ、ついに呉の乗っ取りを行動に移します。

 

 

2人は、呉の統治者である殷通(いんつう)に「軍を率いてほしい」と頼まれるほど深い信頼を受けていましたが、彼に呼び出された際に暗殺を実行。項梁、項羽をすっかり信頼していた殷通は2人にあっさりと殺され、今後は自らが呉一帯の統治をおこなう事を宣言。

 

かくして2人は、天下統一の覇業を進むことになったのでした。

 

 

もっともこの後、項梁も項羽も志半ばで果てることになるのですが……何がともあれ、権謀術数と称すのにふさわしい見事な国盗りでした。

 

 


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