呉子:五章  『応変』 前編

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呉子:五章  『応変』 前編

 

 

 

呉子兵法の第五章は、「応変」。戦場でのいろんな状況を想定した対処法の話になりますね。

 

 

 

呉子は儒教の影響を大きく受けているとはいえ、軍の統制には厳然とした法家思想を用いています。

 

ちなみに孫子兵法は道教の「老子」の影響を受けた兵書であり、孫子呉子両者の着眼点や解決法には微妙に違いがあります。

 

 

 

てなわけで、今回は呉子による戦場の応変の技をお届けします。

 

 

 

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徹底した命令伝達!

 

 

 

 

勇将が精兵を率いて武器や備品の完璧も完璧……戦場では、そんな突破困難な状況に立たされることもあるかもしれません。

 

 

そんな時の解決策として、呉子は命令伝達の徹底を完璧にしておくことを最善の方法に挙げています。困難な任務だからこそ、無駄なく力を結集し、みんなで力を合わせて挑んでいこうという訳ですね。

 

 

昼間は旗や幟などの目につくもの、夜ならば鳴り物による音での指示。これは論将の前編にもあった話ですね。

 

 

この際、大まかにではなく、しっかりと厳密に合図の内容を決めておくことがもっとも重要な事なのです。

 

 

例えば、旗を左に振れば左に進軍、右ならば右に進軍。

 

太鼓が鳴ったら進軍開始。鐸が鳴れば停止。笛の合図が一度なら散開、二度なら集合……だいたい、こんな感じに細かく、かつ単純に取り決めておくわけですね。

 

 

当然、従わない者は重い刑罰を与え、「これが命のやり取りで、非常に緊迫したものである」としっかりアピールするのも重要な事です。

 

 

 

困難な局面こそ、絶対服従、自らを畏怖し、そして敬愛してくれる軍隊を自分で作っていく必要があるわけですね。

 

 

その一例が、何を意味しているのかが一発でわかる合図や命令という訳です。

 

 

 

難しい状況に追いやられたときほど、お互いの連携をしっかり密にしておかなければなりません。

 

そのためには、「言われなくてもわかれ!」などという無意味な叱責などではなく、わかりやすい合図、そしてそれに従わせるだけの威厳が必要になるのですね。

 

 

 

 

服従の姿勢、畏怖、敬愛……

 

 

どれも口先ひとつで得られるものじゃあない。

 

 

 

何にどう従うのかが明白である環境、「従わなければ」と思わせる威厳、そして部下に本気で愛情を注ぎ信頼する姿勢。

 

この三つを兼ね備えて初めて、部下の力を十全に発揮させる土台が完成したと言えるだろうな


 

 

 

 

衆を用うる者は易を務め、寡を用うる者は隘を務む

 

 

 

圧倒的多数の敵を相手取るときは、地形利用に限る。これは孫子にも合った考え方ですね。

 

 

 

用衆者務易
用少者務隘

 

 

衆を用うる者は易を務め、
寡を用うる者は隘を務む

 

 

これは呉子の教え以前から伝えられてきた言葉ですが、「兵が多いときは動きやすい平地を、少なければ大軍の利を生かしにくい隘路を選ぶ」という事ですね。

 

 

おおよそ、この原則にのっとって動くのが、少数兵力で大軍を相手にする肝になります。

 

 

隘路のような場所は閉塞しており包囲も散開も難しく、特に大軍の運用は困難を極めます。また、視界が悪く正攻法が活かしづらい環境にあるわけですね。

 

 

 

正攻法は戦力差が物を言いますが、奇襲や不意打ち強襲はこの限りではありません。

 

 

鳴り物で大きな音を立てて敵を混乱させつつ隘路を利用して敵の不意を突けば、少人数にも充分に勝機はあるのです。

 

 

 

集団によって得意不得意はありますし、人数によってとれる戦略には差異が出るのは当然です。

 

ならば、今いる人の得意分野や少人数だからこそできることで勝負して、勝てる状況に持ち込もうとするのは大事な姿勢でしょうね。

 

 

 

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五軍交至れば、必ず其の利有り

 

 

 

圧倒的多数の精兵強敵が最良の場所に陣取り、しかも防備も完璧に固めて付け入る隙が無い……。続けては、そんな状況を呉子ならばどう打破するかの話になります。

 

 

 

此非車騎之力 聖人之謀也

 

此れ車騎の力に非ず、聖人の謀なり。

 

 

 

打破が困難、あるいは不可能に近い敵に当たるときこそ、視野を広く持たなければなりません。この戦況の場合は表面上の戦力ばかり見ても勝ち目などどこにもありませんので、視野を広げ、大局的、戦略的な見方で敵の弱点を探る必要があるのです。

 

 

まずは全軍を5つに分けてそれぞれを配置し、敵に「どこを攻めたらいいかわからない」と思わせるのが大前提。

 

ここで敵の狙いを探り、まずは交渉によって和平を狙います。

 

 

これに応じてくれればそれでよし。無理ならば、今度は5つに分散した味方の軍で、隙を作らないよう代わる代わる絶え間なく攻めるのが吉……だそう。

 

 

この時、当然深追いしては連携が崩れるのでアウト。正面攻撃、退路遮断、奇襲を常に出し続け、無理をせず勝てないと思ったらすぐに逃げ、その間にまた別の部隊が攻撃。

 

 

これを繰り返していれば勝てる……とのことですが、戦争を知らない我々から見てもかなり困難な話に思えてきます。

 

 

 

まあ要するに、不可能に挑むにはこれだけきっちりした連携が必要になるという事です。本当に難しい局面を任された際には、

 

 

 

1.全員の連携を密にしておく

 

2.リーダーは一歩引いてみて、大きな視点から弱点を探ってみる

 

 

と、こういったことが求められているのですね。

 

 

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追い詰められたらどうする?

 

 

 

完全包囲されてお手上げ状態になったときは、味方の兵が多いか少ないかで手段は変わります。

 

 

まず味方の兵が多ければ波状攻撃。いくつかに分けた部隊のうち一部隊で敵軍の一ヶ所を攻撃。そして無理せず引かせた後、またすぐに別の一軍で攻撃……これを繰り返し、一部隊の休息中には別部隊が攻めかかっているというような体制を作ってしまうのです。

 

 

そして少なければ、防御特化の密集形態……方陣を作って、少数でも敵と上手く渡り合っていける状況を作ることが重要になります。

 

 

 

……まあ、この辺りは完全に戦争の話ですね。活かせる部分があるとすれば……忙しい時は、人数に幾分余裕があれば代わる代わるで人を入れ替え、集中して業務に挑む。人手が足りなければ無理にあれこれ手を出さず一つ一つの課題を順当にこなしていくのが吉……みたいな感じでしょうか?

 

 

 

 

呉子 兵法 応変 戦い 臨機応変 わかりづらさこそ正義(?)

 


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