呉子:一章  『図国』 後編

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呉子:一章  『図国』 後編

 

 

 

 

前編の部分では、戦争準備というよりは戦争の概念や心構えといった内容が主でした。

 

が、次の一文からは本格的な戦争準備、人心掌握について直接的に言及されていきます。

 

 

 

 

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強国の君は、必ず民を料る

 

 

 

 

さて、基本ここからはほとんどが君主との問答みたいな感じで話が進むので、わかりやすさのため要点だけ抜粋していきます。

 

 

 

まず最初に、軍を掌握し人材を登用、そうやって国を強くする為の秘訣について語られています。

 

 

 

まず強国の主というのは、はるか太古から人民の力量をしっかりと見極め、適材適所を心掛けて国を大きくしてきました。

 

 

そんなわけで、組織を強くするにはしっかりとした人材管理や能力の見極めが必要というわけですね。これには単なる有能無能の二つの物差しでなく、その人の置かれた境遇や心理状況、何に適性があるかまで、しっかり見極めなければなりません。

 

 

 

以下は戦争の場合の一例ではありますが……呉子は以下の5種類の部隊をそれぞれにまとめて編成すると、無類の精兵となると説いています。

 

 

1.勇猛果敢な恐れ知らず

 

2.戦功を挙げることに全力な生粋の戦闘狂

 

3.高い城壁を登ったり強行軍にも耐えうる、俊敏で身軽な者

 

4.決して落ちぶれる家柄でもないのに、恵まれず失意のうちにある者

 

5.陣や城を捨てて敗走し、苦汁を経験したことのある者

 

 

 

これらはそれぞれ、持ち味を生かすことで非常に強力な軍隊となります。

 

 

例えば1と2。彼らはどんな状況でも屈さず戦い続ける勇士です。そんな彼らを用いることで勢いを手にするのは、言わずもがな。

 

 

3は、まさしく取り回しに優れた強襲部隊ですね。城内潜入、遠くに離れた敵陣への不意打ちなどの特殊部隊になり得ます。

 

 

4と5に関しては、普通は無能の烙印を押されて見捨てられるものですが……そのことは彼ら自身も重々承知しています。そのため不退転の思いで戦い続け、無能と決めつけられまいと、死地だろうが何だろうが喜んで向かい、戦功を立てようとします。

 

 

 

呉子は、「こんな連中が三千人もいれば、破れぬ包囲も落とせぬ城もない」とすら述べています。

 

 

 

 

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能く賢者をして上に居り、不肖者をして下に処しむる

 

 

 

 

 

続けては、守れば不動、戦えば必勝の無敵の軍の作り方について。

 

 

文侯の後を継いだ武侯から軍強化について質問を受けた呉子は、「答えるどころかお見せすることまでできます」と強気に回答しました。

 

 

 

そのやり方というのがこれ。

 

 

能使賢者居上 不肖者處下

 

 

能く賢者をして上に居り、不肖者をして下に処しむる

 

 

 

賢者を上の位に、愚者は下の位に配する。

 

 

要するに、能力主義という事ですね。有能な人間は高官にやれば、彼らの働きによって軍勢は不動のものになっていくというわけですね。

 

 

 

人材活用の基本だが、有能無能の線引きって難しいよな。

 

見せかけや外面での有能さを計るのは簡単だが、本当の意味での有能さを理解するのはやはりよほどの大物でなきゃうまくいかん。

 

 

実際、議論や外見による表面上の有能さばかりを意識して滅んだ国や勢力も多い


 

 

 

一方で、人民の生活の安定及び一体感も、戦争では同時に必要だと呉子は説いています。

 

 

やはり、国がしっかりと安定し、国民の生活が安心しきれる状況でなければそもそも戦争どころではありませんし、民心が一つにならなければ戦うにしても一丸になり切れず、統率をとるのも難しいでしょう。

 

 

よって、

 

・人民の生活の安定

 

・為政者に対する情愛

 

 

 

この二つも、戦争をする上で必要であると説かれています。

 

 

百姓皆是吾君 而非鄰國 則戰已勝矣

 

百姓皆吾が君を是とし、而して隣国を非とせば、則ち戦いに勝てるなり

 

 

人民が自分の主君を正しいと、同時に相手の国が悪いと本気で考えるようになってしまえば、戦いは勝ったと言ってよい。

 

 

つまり、国が一致団結するには、まず自国に正義があることが大前提。国民が「我が国の君主は立派な方だから、間違いがあるはずもない」と考えるようになれば、自然とみんな団結し、統制がとれるようになるわけですね。

 

 

 

 

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及ぶ者無きを憂う

 

 

 

自分が集団の中で最優秀であれば、とてもうれしく、同時に誇らしく思えてきますよね。

 

しかし、それはあくまで自分の気分が良くなるだけで、決して所属する集団のためにはなりません

 

 

図国の章の最後は、武侯が「合議の中で自分に並ぶ意見を誰も出せなかった」と自身を誇って喜んでいるところを、呉子がツッコミ諫めた際の言葉で〆られています。

 

 

 

かつて、楚の国の王が、自分よりも優れた意見が合議中に出ることがなく、「我が国にも賢者はいるはずだ。だが、なぜ私の臣下には私以上の者がいないのだ……」と嘆き悲しんだことがありました。

 

 

それを題材に出し、武侯の喜んでいる姿を諫め、言われた武侯も自分の態度を恥じ入ったというお話ですね。

 

 

 

 

集団のトップという物は、権勢をある程度誇示しなければ部下に軽視されて人はついてきません。

 

そのため、ついつい「自分の実力こそがナンバーワンだ!」と能力誇示に傾いてしまいがちですが……ナンバーワンによるワンマン統治では人は育ちにくく、それではどうしても次世代に向かいませんし、それ以前に組織トップの実力以上の困難に出くわしてしまえば勝ち目はありません。

 

 

そこで、どうやって周囲を組織を統率し何を以って畏怖させるかと同時に、有能な人間をいかに育て上げ、どうやって舞台に押し上げていくかも大事な課題になるわけですね。

 

 

 

 

世の中、自分以上の能力の人間を制御できるかすら試さずさっさと追いやる奴らも多いよな。

 

 

そいつがヤバすぎる野心家とか気に入らない奴蹴落として組織に穴開けるタイプとか、そういう本当に危険な奴ならばまだしも……

 

追い落としが単なる嫉妬や地位を保守するための行動だった場合、その組織の命は長くないと言えるだろうな


 

 

 

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