孫子の教え:第十 『地形篇』

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孫子の教え:第十 『地形篇』

 

 

 

孫子兵法の解説も、早いものでもう第10回。今回は主に地の利と戦いの道理を説いた「地形篇」です。

 

 

昨今の人生攻略法に地形なんてあまり役に立つものではありませんが……

 

「あるものをしっかり上手に有効利用する」

 

「競争相手に有利な道具を持たせない」

 

 

この2点においては、案外役に立つ部分も多いです。

 

 

 

また、最後のほうには兵士との信頼関係、意識伝達についても述べています。この辺も、使おうとすれば大いに使えるのではないでしょうか。

 

 

さて、前置きが長くなりましたが……孫子兵法、地形篇。見ていきましょう。

 

 

 

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六者は地の道なり

 

 

軍事作戦において、土地柄や地形の把握はかなり重要性の高い項目です。

 

紀元前当時の状況でいえば……泥濘での戦いで騎馬隊をメインにしても馬が足を取られて戦えませんし、重装の兵士を山岳地帯で戦わせると疲れやすく戦いづらいです。

 

 

そのため、地形によって戦い方を変えることも、戦争では立派な重要項目となります。

 

 

孫子は、地形を大まかに通、挂、支、隘、険、遠の6種に分別しています。それぞれの意味合いと戦い方は、以下の通り。

 

 

  説明 戦い方

敵味方双方にとって進みやすい開けた地形 日当たりのいい高台を占拠し、補給路をしっかり確保すること

進むのは簡単だが退却が難しい地形 敵がまともに準備できていない瞬間を狙い撃ちすべし! もし備えが万全なようなら、苦戦は必至

枝分かれしたような進路のある、攻める側に不利な地形 利を見てもこの地形に攻め込むのは危険。むしろこちらから退いて相手を誘い込むべし

隘路。谷間の狭い地形 こちらが先に占拠できたのなら、兵を集結させて迎撃態勢を整えるべし。敵に取られたとき、敵兵が少ないなら攻めるのもよいが、密集し守りを固めているときは攻めてはならない

山間などの険しい地形 先取することは絶対条件。日当たりの良い場所に陣取って敵を迎撃すべし。敵に取られたのなら近寄らないこと

敵味方の陣が離れているような、隔たった地形 戦力が拮抗している場合の攻撃はNG。陣所から遠くなる分不利になる

 

 

 

これまででも述べた、地の利を得る基本部分ですね。

 

高台有利、衛生対策の日なたでの布陣、無茶はしない、兵站線はしっかり確保。

 

 

孫子は、この地形の道理を、将軍がしっかり考えなければならない重大項目であるとしています。

 

 

 

 

 

 

六者は敗の道なり

 

 

 

さて、先述は地の利の道理6通りを説きましたが……次に孫子は、「敗北の6パターン」について言及しています。

 

 

ここに関しては、自然災害や運ではなく将軍の過失によるものであるとと断言されており、この6パターンの敗北に当てはまらないよう、将軍は重々注意する必要があるわけですね。

 

 

ちなみに敗北の6パターンは以下の通り。

 

 

逃亡する。互角の総兵力なのにある部隊に十倍の兵と戦わせた場合、その部隊の兵はロクに戦わず逃げ散るのは当然
弛む。兵たちが強くても軍の幹部が弱ければ、イマイチ引き締まらずに弛んでいく。
落ち込む。軍の幹部が強いのに兵が弱い場合、その軍の力は落ち込む。
崩れる。指揮官と幹部がいがみ合って、指揮官も幹部の力量を軽視、幹部も恨みのあまり勝手に戦う場合、軍の指揮系統は崩壊する。
乱れる。指揮官が軟弱で威厳に欠けで、命令、指揮系統、規則がハッキリせず、陣立てもデタラメな場合、軍を乱れさせる。
敗走。指揮官が敵情把握をせず、小勢で大軍に、あるいは弱兵で強兵にぶつかっていき、真っ先に敵とぶつかる先鋒に勇敢な精兵を起用しない場合、軍は敗北、逃げる羽目になる。

 

 

 

いずれも、将軍の資質に関する総集編ですね。

 

将軍には、敵味方を冷静に観察し見極める洞察力、部下との信頼関係、積みをしっかり罰する公平性と威厳などなど、実に多くの資質が求められます。

 

 

「それだけ多くの資質がいるなら、別にひとつくらい……」と思うかもしれませんが、どれかひとつでも著しく欠けるようなら、それは軍の死活問題です。

 

 

 

指揮官は1プレイヤーでなく、全体を見て方針を決め、しっかり部下を統制する統率者。だからこそ、これだけの責任をしっかり持って、実力任せの勢いだけではない慎重な配慮が求められるわけですね。

 

 

 

 

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夫れ地形は兵の助けなり

 

 

 

地形は、戦争における重要な補助となります。

 

そのため、敵情をしっかり考え、廟算し、戦場の地形までしっかり考えるのが総大将の役目です。

 

 

この辺りの総大将の責務を知るのと知らないのでは、まさしく勝敗を分ける大きな隔たりがある事でしょう。

 

 

 

だからこそ、勝算があれば君主が「戦うな」と命じても戦い、君主が「黙って戦え!」と命令しても勝算がなければ戦わない。そんな利害に特化した姿勢が必要であると説いています。

 

 

そんなわけで、軍功を挙げても名声を求めず、敗北すれば甘んじて罰を受け、ひたすら国の安寧と発展を願い、君主の利害にもその願いが合致する。そんな人物を、孫子は国の宝と称しています。

 

 

 

 

逆に自身の発展を願うあまり何者をも貶めるのもよしよし、手柄は誇張し名声を広めることばっか考え、負けたら部下への責任転嫁にいそしむ奴は……もう国賊って呼んでもいいかもな!

 

 

これはおっさんの経験論だが……こういう人間になると小さいうちは幸せになれるが、大権を握るようになると一気に落ちてくぞ!

 

ま、そんな方法で幸せになる奴なんてクソのがマシなレベルだがな!


 

 

 

 

 

 

卒を見ること嬰児の如し

 

 

 

 

卒を見ること嬰児の如し……つまり、兵士を赤ん坊のようにかわいがること、という意味ですね。

 

 

こうやって兵士にしっかり気を使いいたわっていくと、当然ながら兵からの人望も厚くなります。そうなると、どんな危険な場所……例えば深い谷底にだって兵と共に進むことができます。

 

 

我が子のように深い愛情を以って接してやれば、兵と生死を共にする強い絆が生まれます。

 

 

こういう力は、まさしく……つまり、軍全体のパワーとして機能するわけですね。

 

 

 

しかし、ただただかわいがるだけでは不十分なのが部下を統率する身の難しさ。

 

 

子育てをしているとわかる話かもしれませんが……子供をただ可愛がるばっかりでやるべきこともさせず好き放題していては、だんだん性格の悪い人間に育ち、親をも馬鹿にするような傲慢な人柄が形成されていきます。

 

 

兵士もこれと一緒で、かわいがると同時に法規できっちり統率することも重要なのです。

 

 

厳しいだけ愛情のない将軍ではただ怖がられるばかりで人望がつかめず、慈愛だけでは威厳に欠け、兵士はその愛情に気付くどころか逆に見下し始めるわけですね。この辺りのバランス感覚も、将軍に要求される大事な素質なのですね。

 

 

 

 

この辺、心理学にもあるは無しだったりするわけだわな。

 

厳しくし過ぎると、単純に嫌われる。

 

 

で、優しくし過ぎるとどうなるかってーと、今度は完全にナメくさるわけだ。
つまり、いい気になって専属の奴隷と勘違いし、自己中かつ傲慢に接してくるようになる。

 

 

過ぎたるは及ばざるがごとしというが、優しくし過ぎると、他人はそいつをクズと同列にみなすんだわな。

 

 

 

人には慈愛の心の他に、差別欲求みたいな黒い物も渦巻いていることを忘れちゃいかん


 

 

 

 

 

 

 

 

兵を知る者は動いて迷わず、挙げて窮さず

 

 

 

地形篇の最後は、将軍としての資質を問う形で終わっています。

 

その総集が、見出しの一文ですね。

 

 

 

味方に色々な事情や計略がありますが、それは敵も同じこと。戦争は、味方の有利と敵の不利が合致したタイミングに攻撃できるかが勝利のカギです。

 

 

味方に十分な勢いや力があっても、敵が攻撃にしっかり備えていることもあります。逆に敵が隙だらけのガタガタな状態でも、味方にそこを突くだけの力がなければ勝てないわけです。

 

しかも敵もガタガタ、味方もやる気満々の好機が訪れても、地形のせいでまともに攻めかかれない場合だってあるのです。

 

 

そのあたりの流れをきちんと理解しているかどうかが、勝てる将軍かどうかの分かれ目なのですね。

 

 

 

必ず勝つ将軍は敵も味方も地形も、なにもかも理解しきった上で行動します。

 

そのため、軍を動かすのに迷いがなく、戦っても苦戦することがありません。

 

 

 

知彼知己 勝乃不殆
知天知地 勝乃不窮

 

 

彼を知り己を知れば、勝、すなわち殆うからず

 

天を知り地を知れば、勝、すなわち窮まらず。

 

 

敵情を知って味方のこともよく知っておけば勝利にゆるぎなく、さらに地形も季節のめぐりも何もかも知っている者はいつでもその土地で勝利が得られる。

 

 

地形篇は、その一文で締めくくられています。

 

 

 

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