孫子の教え:第九 『行軍篇』 前編
今回は、第9の教えである「行軍篇」です。
行軍、つまり、軍を進める上での留意点、そして敵情視察のポイントなどですね。
ここからの教えは、地勢やスパイを使った戦い方、そして放火の心得みたいな感じなので、ビジネス書への応用は頭を働かせないとなかなか厳しくなりますが……ともあれ、まったく為にならないわけではありません。
古書に思いを馳せて楽しむもよし、現代社会への応用を試みるもよし……己の感じるままに楽しんで行かれたらなと思います。
当然、こちらも手を抜く気はありません。どうか最後までしっかりお付き合いいただけたら幸いです!
さて、ではさっそく、行軍篇、行ってみましょう!
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四軍の利
まず孫子は、山、川、沼、平地の4つの地形を題材に出して、それぞれの行軍、布陣をどうすればいいかについて述べています。
山は谷に沿うように行軍し、見渡しの良い高地を見つけたらそこに布陣するとよい。
その上で敵が自軍より高所にいる場合は、その敵と戦ってはならない。
川を渡ったなら、必ずその川から離れるべし。
敵が川を渡っているときは、その半分が渡り切った辺りで攻撃をするとよい。
見開けた丘などに陣取るのが鉄則であり、迎撃の際も川の近くに向かってはならない。また、下流から上流の敵を攻撃するのもNG
沼地はさっさと渡り切るべきだ。
もし敵と会戦になってしまったら、その時は飲み水や資材の多い森林を背に布陣すること。
平地の布陣は、前方に低地が広がる、平坦で足場の良い場所を選ぶべし。
背後や右手に丘があり、いつでも利用できるようにしておくこと。
まあ要するに、不利な場所はさっさと切り抜ける。有利な場所はさっさと奪い取って占領してしまえ。こういう事ですね。
この辺はいずれも、後の戦争では「常道」となり、これを基本とした発展型の戦法や、不利を逆手に取った奇策等々……多くの策が生み出される雛型となったのです。
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高きを好みて下きを憎む
4種の地形での軍の進め方、その補足ともいえる部分が、この見出しの文章ですね。
軍は高いほうが見渡しもよく勢いも生まれますが、逆に低ければ低いほどこれらの恩恵は得られず、かえって不利になってしまいます。
また、当時敵と同時に厄介だったのが、衛生面。戦争中は風呂にも入れず、食料補給も難しく、トイレも作らなければ存在しません。
とにかく、衛生管理がなっていないとすぐに疫病が多発してしまうのです。
そこで、じめじめした日陰を避け、日なたにきちんと布陣すること。そして新鮮な水や薪などの資材が簡単に補給できる場所というのも、布陣の際の鉄則となっていました。
圧倒的有利が疫病の発生で崩れた例なんて、戦争見てると結構あるからな
とにかく兵士の万全な状態を維持し、いざという時に気力全快で気合いを入れさせること。
そのための場所のセッティングが、当時の将軍たちの死活問題だったことを思わせる表現ですね……
其の定まるのを待て
ちなみに次の文面では、「川が激流となっているときは洪水の危険があるから落ち着くのを待て」と述べています。
無理無茶ぶり、ダメ、絶対!!
災害時に無茶をさせて万一のことがあっても、それは当人の努力不足でも日頃の行いのせいでもありません。
近づくこと刎かれ
孫子がこの次に述べているのは、決して近づいてはならない危険な地形について。
「以下の地形には絶対に近づくな」と警鐘を鳴らしています。
ゼッカン 絶澗 |
絶壁の崖の谷間 |
---|---|
テンセイ 天井 |
天然の井戸。切り立った崖に囲まれた窪地 |
テンロウ 天牢 |
険阻な地形に三方を囲まれた天然の牢獄 |
テンラ 天羅 |
草木が群生し、身動きの取れない場所 |
テンカン 天陥 |
窪んだ沼地。天然の落とし穴 |
テンゲキ 天隙 |
険しい山間の狭い隙間のような道 |
こういった地形はそもそもまとまって動くのも困難で視界も悪い、まさしく最悪の土地です。こういった場所を通る際にはさっさと通り抜けてしまい、以後は近づかないのが吉。
こういう場所に陣取ると、敗北必至な上逃げられず、最悪な末路が待っているのは想像に難くありません。
が、もしこんな地形に上手く敵を誘い込めたら……その時は、まさに好機と言えるでしょう。孫子は、「こういう地形に敵を誘い出すこと」とも述べています。
同時に、「以下の地形は伏兵や斥候の潜む場所だから索敵を怠るな」、という一文もそこから続いていますね。
・険阻な地形
・崖下の池
・葦のような背の高い草が群生している場所
・草木の生い茂った山林地帯
いずれも、隠密行動に適しており敵から見つかりにくい地形です。こういう場所は奇襲を受ける可能性も高いため、特に警戒が必要なわけですね。
こんな感じで、地形にも有利不利がある。
こういう地形みたいな一見微妙なヒントから、画期的なアイデアや敵さんの狙いがわかることもあるんだな
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