角川ソフィア文庫:『孫子・三十六計』 編纂:湯浅邦弘
さて、孫子兵法も全篇、私なりにわかりやすくまとめてみた所で……
孫子兵法の記事もこれで最後の最後、おそらく数ある孫子解説本の中でもとっておきの、ビギナー向けの中でも私が知る限り最高クラスの本についての感想文を以って飾ろうと思います。
これだ!
![]() | 孫子・三十六計 湯浅 邦弘 編纂 |
まず初めに断っておきますと、こちらは始めのコンセプト段階から「ビギナー向け」の一冊になってます。
そのため難解な表現などに逐一解説を入れており、それだけ編纂した人の思いや独自の観点という物が強く出ているため、いわゆる通の方にはおすすめできません。
ただ、その分「孫子についてこれからいろいろ知りたいなー」などと漠然と考えている人にとっては、非常におススメの一冊であると断言します!
原文、書き下し文、そして現代語訳。特に兵法関連の書籍はこの3つの文体が主軸になって掲載されており、それはこの本も例外ではありません。
しかし、他の雑多な解説書とこちらの孫子・三十六計の違いをわかりやすく端的に言えば、
・注釈や独自解説の量とわかりやすさ
・時折入る独自考察
この2点に限るでしょう。
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読みやすさは最強クラス!
どうしても古書の類はわかりにくい表現、抽象的な文章などで読み手の解釈に依存する部分が多く、読んでいて非常にわかりにくいです。
そのため、こういったわかりにくい表現や意味不明な一文をどう解釈するかが古書注釈の腕の見せ所になりますが……こちらはわかりやすさをとにかく重視。
徹底的にかみ砕いて、誰にでもわかるように解説、注釈しています。
また、時折コラムや当時の情勢から見た独自解釈も混ざっており、活用例や思想など当時の世界観との接点にも事欠きません。
特に目を引くのが、現代語訳の後につらつらと続く解説や独自解釈。これこそがこの本を「初心者向け」として尖らせると同時に、わかりやすさを数倍にまで増幅させていると言っても過言ではないでしょう。
何度も言いますが……こういう古書の類……現代語訳だけではものすごくわかりづらいです。古書初心者ならばなおのことでしょう。
大丈夫、現代語訳だけだと俺にもよくわからん部分は多い
こちらの本は徹頭徹尾初心者向けに作られており、こちらの詳細解説にも抜かりがありません。おかげさまで、私が独自に孫子の内容をまとめていく際にも非常に重用させていただきました。
とにかく、この解説のおかげで、何が言いたいのかわからない部分もよく頭に入ってくるし、理解しづらい部分も独自解釈のおかげでだいたい理解できる。
ビギナーズ・クラシックと銘打っていますが、まさにその名に恥じない……いや、それ以上に初心者に優しい一冊ですね。
「何となく為になるかもだし、孫子読もうかなー」なんて漠然と考えている方は、他の堅苦しそうな本ではなくこちらを読むべきでしょう。本当、これまで読んできた孫子兵法の中で、読みやすさはダントツです。
ザ・ビギナー向け! まさに古書をよく知らない人向けに特化した、初めてだからこそ読むべき一冊と言えるでしょう。
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わかりやすさは通には不要……
さて、わかりやすいという事は、それだけ孫子をしっかり理解している人や古書を読んで目が肥えた人には今一つという事にもつながります。
つまり、ビギナー向けに特化した分、通や古書マニアのような人々には全くと言っていいほど向いていないのですね。
とにかくわかりやすさを最重視するために、内容は七割方解説に割かれており、よく中国古書を愛読する人たちが言っている「漢文の造形美」を味わうには不向きというわけですね。
一応、漢文そのままの原文が書き下し文の下の方にちょろっと載っていますが……それが位置的にまったく目立たない場所であり、初心者向けである以上重視していない、できないという事情をこれでもかと物語っています。
あと、何より孫子の文面の代表的な部分だけを抜粋して話しており、全文を余さず載せているわけではないというのも、通には不満の残る部分かもしれません。
まあ、それでも全文のうちの半分くらいはしっかり抜粋しているのはさすがといったところですが……
そして無視できないのは、わかりやすい解説重視故の、独自観点の多さでしょう。
とにかく、あくまで初心者向けであって、通やマニア、上級者のために作られたものではないという部分は、理解しておく必要があるでしょうね。
まあ、その辺はもっと上級者向けのシンプルなものも多いのでそちらに任せておけばいいでしょう。
さて、最後にもう一つ腑に落ちない点が……
ズバリ、包 装 が 地 味
いや、これはこれで、まさしく古書の解説って感じで味があっていいんですが……こんな本が包装のせいで敬遠され、なんか女の子のイラストとか載ってるチャラチャラしたビギナー向け解説本に読者を取られていると思うと、ちょっと不満にも思えます。
まあもともと真面目な解説本だから妙にチャラチャラさせるのはそれはそれで問題ですが……もっと知られてもいいのではないか? そう思える一冊です。