三十六計:第十一計:李代桃僵(りだいとうきょう)
言葉の意味
李、桃に代わりて僵る
李……つまりスモモは桃と違って値段も安く、当時は食べ方もイマイチ確立されてなかったことからかなり悪い扱いを受けていました。
この言葉は、そんなスモモの暗黒時代にできた言葉ですね。
スモモが桃の代わりに虫害を一手に受けまくって桃の実の無事を確保する。そんな言葉が転じ、大目的のために小さな犠牲を容認する……つまり、「損をして得を取れ」的な意味合いの言葉として広まっています。
スポンサーリンク
要するに……
勢必有損 損陰以益陽
勢い必ず損有り。陰を損ないて陽を益す。
生活上、どうしても些細な損失すら出したくないと思ってしまう事は多いものです。
一切合切の損失を出さずに目的を達成できるのならばそれに越したことはありませんし、仮にそれが達成できるのならば素晴らしい事です。
しかし、なかなかそうはいかないのが世の中。どうしても損を出して進むか、それとも諦めるかの二択を迫られることもあるでしょう。
競争の場でも、勝ったところで特に得られるもののない戦いを強いられる事がありますし、そもそも勝っても何もない上に勝ち目の薄い戦いも存在します。
こういった後のためにならない戦いはあえて捨ててでも、本命の戦いに勝てるようにしましょうというのが、李代桃僵の策ですね。
言ってしまえば「選択」と「集中」だな。
それが本当に目標に必要かどうか考え、必要な行程手段を選ぶ。で、選んだらそこに集中。あれもこれもと雑多な欲を出したり必要な経費をケチったりすると、それだけ手間が増えていくぞ
実例:孫臏の賭け事
囮部隊の劣勢を放置して目的を達成するような戦い方は、まあ古今東西いろんなところで例を見かけますが……ここはもっともわかりやすいシンプルな事例を出してみましょう。
時は孫臏(そんぴん)の生きる春秋戦国の時代。
当時は自分の馬で競争をさせる競馬のようなことをするギャンブルが富裕層で行われていたのですが、将軍の田忌(でんき)がこれに派手に負け越してしまっていました。
その話を聞きつけた孫臏は、「ちょっと試したいことがある」と田忌に提案。そのまま田忌に連れられて競馬場に向かったのです。
そして競馬の様子を一通り見ると、3回レースが行われており、それぞれ第1、第2、第3とレースが後になるにつれ、馬もどんどん遅くなっていくことに気が付きました。
田忌の馬は他の馬よりもわずかに遅かったため、このレースの流れに素直に従っていたのではとても勝利は難しい。
そこで、孫臏は第1レースにもっとも遅い馬、第2レースに最速、最終レースにちょうど中間くらいの馬を参加させ、さらに「これで勝ち越せます」と田忌に多額のお金をつぎ込むことを提案したのです。
孫臏を強く信頼していた田忌は全部孫臏の言うとおりにしたところ、惨敗した第1レース以外のすべてで1着を飾り、本当に勝ち越しに成功して大金を勝ち取ることに成功したのでした。
勝ち目がない戦いやおいしくない戦いは大人しく負けてやり、絶対勝てるという自信のある所で戦う。これもまた、立派な戦い方なのです。
スポンサーリンク
現代でも……
孫子にも「百戦百勝は善の善なる者に非ず」と言い、やはり厳しい戦いや旨味のない戦いはできる限り回避するのが一番の手段になります。
これは現代にも同じことで……例えば完全に文系の人たちが物理学の分野で学者を相手に勝負を吹っ掛けても、結果は見えていますし、結局何のために戦っているのかわかりません。
ほとんど報われることのない……さらに言えば何のためにやってるのかわからない努力は、思い切って切り捨ててしまう方がかえって良い結果を生むことは多いです。
実生活においても、今やっていることは本当にやりたいことなのか、あるいはゴールに必要なものなのかを考えて動いてみることで、最後には無駄な苦痛が省かれて心にも余裕ができます。
今やっていることや昔からの習慣を捨てるというのはなかなか勇気のいることですが……不必要と感じたら思い切って捨ててしまうのが、幸せへの近道なのかもしれませんね。