三十六計:第二十一計 金蟬脱殻(きんせんだっかく)

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三十六計:第二十一計 金蟬脱殻(きんせんだっかく)

 

 

 

言葉の意味

 

 

金蟬、殻を脱す

 

 

この計略は、セミが成虫すると抜け殻を残して飛び立つことに何かしらのひらめきを得たために生まれた計略のようですね。

 

 

文面をそのまんま読み取ってみると何となく思いますが(念を押すとそういう意味じゃないけど)、金のセミとかどうやっても目立ちそうですよね。そんな金ピカのセミが、どうやったら天敵に気付かれずにその場を脱するのか。

 

その答えは、脱皮です。抜け殻をそこに置いておくことで敵の目線をそっちに向け、その間に脱皮したセミがさっさとその場を抜け出す、と。

 

 

要するに、何かしらデコイや陽動を使って敵の目をごまかして、敵が目を奪われている間にひっそり撤退するなり移動するなりしてしまうのが、金蟬脱殻の計なのです。

 

転じて、建前やアリバイを作って表面を取り繕いながら、裏でそそくさと本命の計画を進めていくと。こういう意味合いにもなりますね。

 

 

 

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要するに……

 

 

存其形 完其勢 友不疑 敵不動 巽而止 蠱

 

其の形に存し、其の勢を完うすれば、友疑わず、敵動かず。巽いて止まるは、蠱なり。

 

 

 

孫子兵法にも「敵の使者がこちらを恫喝するのは、実は撤退するつもりでいる」というようなニュアンスの言葉がありましたが、早い話がアレですね。

 

撤退するときにわざわざ使者をよこして「撤退します」と伝えては、軍勢を率いての戦争では「追撃してダメージを与えてください」と言っているようなもの。撤退時には、逃げようとしていることを相手に悟られてはならないのです。

 

 

そのため、撤退する気がないように見せかけ、相手に防御態勢をとらせてから逃げるというのが軍を引く上での常套手段でした。

 

 

金蟬脱殻の計は、おおよそこの撤退時のセオリーを説いたものですね。

 

転じて、デコイや陽動を使ってまるで動いていないかのように見せかけ、その裏でひっそりと移動するという暗渡陳倉のような使用法を指すこともあります。

 

 

いずれにせよ、敵に真の目的を悟られないというのは、戦いにおいては基本であるという事ですね。作戦が筒抜けでは、相手は必ず対策を施してくるのです。

 

 

 

ちなみに

 

 

 

最後の一文である「巽いて止まるは、蠱なり」は、これまた中国の占術の話ですね。わざわざ取り上げる話でもないのですが……さらりと重要な意味を持っているのでちょこっと解説しておきます。

 

 

この言葉が出てくるのは、『易経』という書物。

 

意味合いとしては、「上がロクに考えもせずじっとして下は思考停止してそれに従っているのでは、国の混乱や衰退を招く」という感じですね。

 

 

物事を見せかけだけで判断するのは危険。というのも、敵が馬鹿正直に見える範囲で動いているとは限らないからです。

 

 

意図や真意、物事の本質をしっかり見極めることが、何事においても大事。見せかけや表面上の動き、第一印象だけで物事を判断してしまうと、たいてい手痛い打撃を受けるものなのです。

 

 

 

最近見かけるのが、「楽でいいから」という見せかけの情報だけでユーチューバーやって自滅したり、相手を年収や社会的地位だけで評価して後でどんでん返しに巻き込まれて詰んだりするパターンだな。

 

見せかけのフィルターってのはそれだけ厄介なもんだ。金蟬脱殻に引っかからないようにするには、その厄介なフィルターをどこまで取り除けるかにかかってる。

 

 

……ま、これが結構難しいんだがな


 

 

 

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実例:追い詰められたときの脱出策

 

 

 

金蟬脱殻の実例として非常に有名なのが、前漢の高祖・劉邦(りゅうほう)がいつも通り項羽(こうう)にフルボッコにされたときの話。

 

 

項羽にボコボコにされて再起を図るため街に逃げ延びた劉邦でしたが、項羽はこれを密かに追跡しており、再起を図る間もなく街ごと包囲されて絶体絶命のピンチに立たされてしまったのです。

 

しかも項羽軍の包囲は厚く、準備不足な劉邦軍は打って出ることも逃げることも許されず、やがて兵糧も枯渇して干上がっていくばかり。

 

しかし、この絶望的な状況下で、劉邦軍の軍師である陳平(ちんぺい)が策を提案します。

 

 

それこそが、金蟬脱殻の計。劉邦のために死ぬ覚悟でいる将軍の1人を劉邦の偽物に仕立て上げ、兵士に偽装した婦女子と共に項羽に降伏。その隙に本物の劉邦は急いでその場を脱却するという計略だったのです。

 

 

劉邦はその策を実行し、将軍は女子供が扮装した兵士と共に降伏。さらには街での足止めのために正規軍を残し、劉邦をなんとか逃がす算段を立てました。

 

 

結果として、劉邦に偽装した将軍と街を守っていた足止め部隊の指揮官は項羽に処刑されてしまったものの、劉邦はそのまま逃走に成功。項羽軍が策だと気づいたときには既に遅く、劉邦は戦地を離脱して体制を立て直すことができたのでした。

 

 


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