三十六計 第四計:以逸待労(いいつたいろう)
言葉の意味
逸を以って労を待つ
意気軒昂、気力充実。そんな状態の敵に疲弊した軍勢でぶつかっても、勝ち目は薄いです。しかし、これは敵にとっても同じこと。
以逸待労の計略は、こちらが動かず万全の状態で、敵が疲れるのを待つだけ……という理想形を完成させれば勝つのも難しくないよね、という意味合いの言葉になります。
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語源・由来
以逸待労の語源は、孫子兵法の一節です。
以佚待勞 以飽待饑 此治力者也
佚を以って労を待ち、鮑を以って饑を待つ。此れ力を治むる者なり。
この一文ですね。軍争篇の要の一説としてもしばしば取り上げられ、歴史上にも事例が点在している戦法です。
気力充実の状態で疲れ切った敵の到来を待ち、腹いっぱいの状態で腹ペコの敵を待つ。上手く気力や相手の準備段階をコントロールすることで、前もって有利な状況を作り出すのが、孫子の鉄則なのです。
ビジネスなんかにおいても、やはり単なる二番煎じよりは最初に開拓したほうが幾分有利だわな。
たまーに都会の激戦区を避けて郊外や地方都市で勢力を伸ばす企業もあるが、これも大企業の地方進出に対抗した、以逸待労に近いものかもしれん
要するに……
困敵之勢 不以戦 損剛益柔
敵の勢を困めて、以って戦わず。剛を損して柔を益す。
万全の態勢を整えた相手と戦うのは、よほど何かを急いでいるとき以外は下策。それならば下手に動かず、相手の準備を無効化して勢いを削ぐのに専念して、その間は戦おうとしないのがベスト。
孫子の言葉では、戦いとは勢いで決まるもの。ならば勢い盛んな敵を打ち倒そうと躍起になっても、損しかないわけですね。
こういう時は、切り口を変えて相手の準備していない領分に飛び込んで先手を打つか、相手の進出先を予想して迎え撃つ準備をするか……とにかく、相手の万全の体制を崩して優位に持ち込むことを考えるのが効果的なのです。
完全アウェーであの手この手を用意した相手と、準備もできずホームに慌てて誘い込まれた相手。どちらを相手にするのが簡単かは、明白ですね。
そもそも戦いとは、利益の奪い合いで起こるもの。得られるものを無視して相手を正面から打ち負かすことばかりを重視していたのでは、勝つには勝っても徒労に終わる事がほとんどです。
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引用:気力切れ大勝利
歴史上小勢や弱兵が強大な相手に打ち勝つときには、しばしば持久戦による気力、あるいは兵糧切れを狙っての勝利が見受けられます。
例えば、『史記』に伝を持つ秦(しん)の将軍・王翦(おうせん)は遠征軍を率いて燕(えん)を討伐した時、あえて要塞を作って立てこもり、味方の疲労を回復してから肩透かしを食らって撤退しようとした燕軍を撃破しています。
日本における戦いでも、毛利元就が尼子氏に本拠を攻められた際に、圧倒的不利な中で籠城戦を展開。援軍の到着だけでなく尼子方の苛立ちや兵糧切れなんかもうまく作用して最終的に大勝しています。
とまあ戦争の話ばかりでイマイチ現在に結びついてない気もしますが……
まあ、今現在の競争においても、先手を打つことの重要性は明白なはず。準備を念入りに行った分野と何の準備もしていない分野のどちらに飛び込めば有利かは、語るまでもありません。
以逸待労の計とは、相手を不利な体勢に押し込んでから自身の有利を作り出し、それから効果が発揮されたところで初めて戦う。ここまでの一連を表した計略なのです。